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@Chirollo




 既に購買のパンを腹におさめた昼休み、あんまり暇なので友人の長い髪をいじって遊んでいると、突然友人がこちらを見て、「夢を見たんだけどね」と言いだした。

「何急に。夢十夜かよ」

「いや、ちょっと聞いてよ。実はさ、昨日の夜見た夢と、今の状況が、めちゃくちゃそっくりなの。ほんと同じ。お腹空いたからもうパン食べちゃってて、昼休み暇でしょうがなくて、暇っていったって私たち二人とも数Bの課題は無かったことにしてて、そうやってだらだらしながら、あんたが突然私の髪で細かい三つ編み作り出すの。まったく一緒。夢の中でも外は晴れてて、教室に残ってる人も今居る人数くらいだったし」

「あー。でも意外とあるよね、そういうこと。私もあるよ。あーこれこないだの夢と同じじゃん!みたいなの」

「え、そういうもんなの? 私、物心ついてからこれが初めてだわ、多分」

 そう言って友人は、気味悪そうにあたりを見回した。

「そんな気にすることないよ。夢ってさあ、記憶がもとになって出来てるんだって。そう考えてみればさ、私とあんたがこうやって昼休み喋るのも、三限でわけわかんないくらいお腹空くのも、数Bの課題なかったことにするのも、私があんたの髪いじるのも、これが初めてではないじゃん。だから多分、常日頃よくやってる習慣が夢に出てきて、また現実とも重なるってだけのことだって」

「……そりゃ一般論ではそうだけど。いや、ちょっと怖いのがさ、その夢続きがあって」

「続き?」

 友人が深刻そうな顔をする。

「それまでは晴れてたのに、急に雨が降り出すの。最初はみんな、傘持ってないどうしよう、みたいなお気楽な感じなんだけど、どんどん雨が強くなって、結局みんな家に帰れなくなるんだよね。それで学校に泊ることになるんだけど、変な噂が流れ始めるの。『水に触れたら死んじゃう』っていう。で、実際に水に触って死ぬ人も出てくる」

 ぼそぼそとした声で語られる夢の内容に、思わず声を出して笑ってしまった。

「めっちゃホラーじゃん。水触ったら死ぬの?」

「笑わないでよ。まじで怖いんだから。手洗い場に死体がいっぱいあるんだよ」

「爆笑するわ。でもあるよね、夢独特の理不尽な感じ」

 手洗い場の死体に驚き、決死の表情で水を徹底的に避ける友人を想像して、可笑しくなる。堪えきれずにまた笑いだす私を見て、友人が冷たい目をした。

「雨の夢かあ。私もあるなあ。ちっちゃいころ、家が雨漏りしちゃう夢を見たことあるよ。家じゅうのお椀や洗面器を持ち出すんだけど、どんどん雨漏りする場所が増えていくから、最後には家の中で傘差すはめになるの」

 あれもまじで理不尽だったなあ、と思い返して笑う。友人は依然不服そうな顔だ。

「まあこんな話してても仕方ないし、数Bやる? そろそろ私たち赤点だよね」

 そう言って、鞄から問題集を取り出そうとした時だった。

 ざあ、と音がして、顔を上げると、窓の外の空が急速に暗くなっていくのが目に入る。数秒のうちに音と暗闇ははっきりとしたものになった。教室がざわめき始める。豪雨の音。

 友人と顔を見合わせる。友人の顔は真っ青だった。

 固まった私の視界を、ふと何かが落ちてゆく。ぴちゃ、という音に背筋を寒くしながら目線を下に向けると、机の上には水滴が広がっていた。

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