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@Sr__ka_ 




 西日もまぶしい午後、コーヒーを飲みながら同居人と他愛もない話に興じていると、すぐそばに置いていた携帯が震えて、着信を示した。「ちょっとごめんね」と向かいに座る相手との会話を止めて、携帯を立ち上げる。画面に表示されたのは予想通りの相手からのメッセージだった。恋人からの束縛に悩んでいた友達。メッセージはどうやら、恋人と別れたという報告らしい。

「あー良かった良かった」

「どうしたの」

「郁ちゃん彼氏と別れられたって。膝詰めて六時間話したらしい」

「凄いな。六時間? 二人っきりで?」

「そうそう……途中わたしも泣いたりしちゃったけど、最終的には円満に話がついたよ、だって。良かったねって送っとこ」

「悩んでたもんねえ」

「ねえ」

 報告に対しての感想を綴って送信する。携帯を切った。

 とりあえず、円満に解決できたようで何よりだ。「彼氏が男の人と出かけちゃだめって言うからさ」と悲しそうに笑っていた郁ちゃんの顔と、先ほど送られてきたメッセージが頭に浮かんで、これでまた郁ちゃんと遊びに行けるようになる、としみじみ嬉しくなった。

「束縛かあ」

「何、してほしいの?」

 投げかけるような調子で発した言葉をどう思ったのか、目の前の男は何とも形容しがたい顔をした。その顔が面白くて、意図せず口が緩む。

「いやいや、郁ちゃんの話聞いてたらそんな呑気なこと言えないよ。男友達とは複数人でもご飯行っちゃダメとか、定期的に今どこに居るか連絡しろとかさ。とんでもないよ。酷い話だと思う。……まあそれに、もし僕がしてほしくたって、君そんなにまめなことできないでしょう」

「束縛ってまめさが必要なの?」

「必要じゃない? 時間いちいち気にしたり、恋人の不審げな行動を察知したり。束縛なんてやるほうも大変だよね」

 郁ちゃんが、『別に、あの人だって私が嫌いだからああいうことするんじゃないのよね。だからこそ難しいっていうか』とため息をついていたのを思い出した。問題の郁ちゃんの彼氏だって、郁ちゃんのことを愛していたのは確かだろう。ただその愛情の示し方がいけなかった。

 目の前の男が真面目な顔をして、口を開く。

「僕は、別に君が誰と食事に行こうが気にしないけど。君は僕一人を相手に生きてるわけじゃないんだから。君が僕以外の人と交流するのを咎めたてるのはおかしいよ」

「まあその通りだね。それがまっとうだよ」

 それでも大概の場合、愛情がより伝わりやすいのは、エキセントリックな手段が取られた場合であると思う。人格の尊重とか、寛容さとか、そういうものに気が付くのはいつも、ふと思考を巡らせたときだ。まっとうな方式は、頭を働かせないと感知できない。

「でも、日々の生活をつつがなく整えてくれる人よりも、迷惑をかけてくる人の方に意識は向かってしまうじゃない。どうしてもね。同じ大きさの愛情でも、その「大きさ」だけは、ちょっとどうかしてるやり方の方が伝わりやすいんじゃない?」

 そう言って、コーヒーに口をつける。ふと視線を感じて顔を上げると、目が合った。

「どうしたの?」

「伝わってないの?」

「え?」

「……君の行動を縛ったりなんかしない。君の交友も制限しない。だからって君への愛情が薄いわけじゃないし、君を独占したい気持ちがないわけでもない。でも、独占欲より、君がそうやって友達を心配したり、友達の嬉しい報告を喜んだりしているのを尊重したい気持ちの方が強いんだ。僕は君のことが好きだよ。君のことを一番愛してるのは僕だと思う。僕はあんまり口が上手くないから、ちゃんと伝わっていないのかもしれないけど、だからって束縛なんてしようとは思わないよ」

 机の上に、おずおずと手が伸びてきて、僕の手に触れた。そのまま、祈りを込めるみたいに握られる。

「僕だって君に執着してる。出さないだけだ」

「……あー、ちょっと待って……」

 不意打ちだ、と呟くと、目の前の男は真剣な面持ちを崩して、「言わせたかったんじゃないの?」ときょとんとしてみせた。

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