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@takahashi_ily
出席番号十八番の男に割り当てられた靴箱は、私に割り当てられた靴箱と、ちょうど桂馬の関係にある。私の靴箱の二つ下の靴箱の左隣。三かける二。左下と右上。放課後にも関わらず、1Cの靴箱には私以外の誰もいなかった。
十八番の靴箱を開ける。スニーカーが入っていた。下足が入っているということは、まだ彼は帰宅していないのだろう。それが今の私にとって、良いことなのか悪いことなのかはよく分からなかった。
スニーカーの上に、昨日書いた手紙を載せる。ラブレターというやつだ。手紙は上手くスニーカーの上に乗った。彼がこれに気付かずに帰るのは不可能だろう。
扉を閉めて、右上の私の靴箱を開ける。ローファーを取り出して、履き替え、上履きをしまって、扉を閉める。そのまま歩いて、校舎を出た。
退屈で仕方がない。
授業も生徒も先生も、何もかもが退屈で、どうにかこの退屈を崩せないだろうかと考えた。なんとなく、ラブレターを出そうと思った。誰に書こうか考えて、桂馬の男に決めた。
反応を見たいから、同じクラスの男にしようと考えて、最初は適当に決めようとしたのだけれど、まかり間違うと厄介なことになりかねない、と思い直した。退屈なのは嫌だけど、別に地獄に陥りたいわけじゃない。恋人を持つ男は候補から外した。ラブレターをもらったことを大々的に騒ぎそうな男も外した。嘘のラブレターであることを疑うだろう猜疑心の強い男も外した。
そうして候補に残った男の中で、ふと、桂馬の男が目に留まった。そうして決めた。
桂馬の男は背が高い。あまり騒がない。色が白い。教科書を朗読するときに、きちんとした声を出すのが印象的だった。でもそのくらいだ。話したことは一回もない。笑ったところを見たこともない。だから、ラブレターはあんまり上手く書けなかった。「一目ぼれをした」と説得力のない言葉を書いた。
「これ、君が書いたの?」
あくる朝、廊下で桂馬の男に呼び止められた。立ち止まると、昨日渡した手紙を見せられて、そう聞かれた。うなずいた。
「なんで僕?」
教科書を朗読するときの声と同じ声だった。きちんと、手を抜かないで、言葉の意味を分かった上で、人に聞かせようとして発する声だった。
一目ぼれなんです、と返そうとして、上手く行かなかった。本当の気持ちを話したいような気がした。「退屈だったから出しただけ」。
「声が好き」
自分の口から用意したものと違う言葉が飛び出て、あれ、と首を傾げると、桂馬の男は一瞬面食らった顔をして、その後おもむろに耳を赤くした。