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@doagaitemococoa
青の話がしたい。
青。
うちの学校の美術室は五階にある。毎回ほとんど死にかけで私は部活にやってくる。文化部の高校生の運動量なんて塵みたいなものなのだ、息せき切るのも仕方ない。そう、そうして、はあはあ言いながら美術室にやってきて、なんてったって五階なので、景色がいい。この学校はちょっとした郊外にあるので、美術室からだとうまい具合に空が広く見える。そして、特に今日の空は、みずみずしくて、深みがあって、燃えるような、最高の青だった。こういう肌の果物があってもいいような感じの最高。で、描きたいな、と思った。別に写真撮ったっていいんだけど、やっぱり目に映る色と写真の色って違うじゃん。
そんで、描きたい、描こう、と思って、意外と上手く行かなくて、あれれ、と思ううちに空はオレンジ通り越して黒になっていた。私の前に置かれたカンバスには、あまり訴求力のない色が広がっている。
どうしようもないカンバスを目の前に、うんうん唸って考え込んでいると、突然ガラガラと音がした。音のする方を見遣ると、美術室のスライドドアを開いた友人が、あきれ顔でこちらを見ているのが目に入る。言い忘れてたけど、うちの美術室のドアは建てつけが悪い。そして友人は割と常識的な人間であり、私の勝手気ままな振る舞いに小言を言うのが趣味みたいな女である。
「あと五分で下校時刻ですけど。何やってんの」
「絵描いてるの。ちょっと待ってよ」
友人が無表情でこちらに近づいてきて、私の腕を捻った。
「痛い痛い、ごめんなさい、離して下さい、帰る準備します」
友人の手が私の腕から離れ、私はそそくさと荷物の置き場所へと向かう。
用件の前に暴力だったから気付くのが遅れたけど、多分いつものように、友人はわざわざ五階まで、私を呼びに来てくれたのだろう。靴箱か何かを見て私の上靴がないのを不審に思ったのかもしれない。そういうところは勘のいい女なのだ。
わざわざ来てくれたんだ、待たせるわけにもいくまいと、急いでコートを羽織り、道具を鞄に詰め込んだ。
「お待たせしました、参りましょう」
ふざけた声でそう言いながら、鞄から顔をあげたその瞬間、視界の端っこにカンバスを見つめる友人が居て、びっくりする。
「これ」
「う、うん」
「今日の空?」
きょうのそら、の「ら」の形の口をしてこちらを振り向いた友人に向かって、思いっきり走った。勢いつけて抱きしめるために。